なぜ描けない?運動会の絵。子どもの思いを聴く保育者とリレーの思い出を描いた説明用イラスト

なぜ描けない?5歳運動会の絵|「一番描きたいこと」を引き出す7つの関わり

5歳児の運動会の絵について紹介する記事の表紙

運動会の絵が描けないのは、子どもの力不足ではありません。描くものが多すぎて、子どもが迷ってしまうからです。その理由と、迷わずに「一番描きたいこと」を描けるようになる関わり方を、保育の実践エピソードと一緒にご紹介します。

皆さん、運動会シーズン。お絵描きで困っていませんか?

「運動会の絵を描こう」と言ったとたん、子どもの手が止まってしまう。トラックや万国旗ばかりで、肝心の子どもたちの姿が小さくなってしまう。そんな声をよく聞きます。

このお話は、インスタライブでいただいた「5歳の運動会の絵、どうやって描く?」という質問から生まれました。25年間、保育の現場で37,500枚の絵を聴いてきた経験から、お答えしていきます。

もも先生の保育ノート

描き方の前に、その子が見ていた運動会を聴いてみる。ここからは、子どもたちの作品とともに、保育の中で大切にしてきた関わりをお伝えします。

この記事でわかること

  • 運動会の絵で、子どもが迷ってしまう理由
  • 「一番描きたいこと」を引き出す7つの関わり
  • 体験と仲間への思いが、絵につながる実践エピソード

運動会の絵は、実はとっても難しい絵です。理由は大きく2つあります。

トラックと人物の位置関係を描いた子どもの絵
トラックと人物の向き。一枚の紙に表そうとすると、考えることがたくさんあります。

トラックを描くと…どっち向きに描く?

先にトラックを描くと、そこに人をどう描いたらいいか分からなくなります。向こう側の人は?横向き?大きさは?上から見たトラックの上を、横から見た人が走る。これは構図として、とても難しいことです。

万国旗を描いた子どもの運動会の絵
旗を描く楽しさも大切にしながら、「いちばん描きたかったこと」を聴いてみます。

万国旗を描くと…旗に夢中で、主役が入らない

万国旗は、描き始めると楽しくて止まらなくなります。気づいたら旗で紙も時間も使い切って、一番描きたかったことが入らなくなってしまうのです。

子どもの力不足?

情報が多すぎて、迷っているのかもしれません。

運動会の絵は、大人が描いても難しい。正直に言うと、私も描けません。それでも子どもたちは、教えなくても、前向き・横向き・後ろ向きを描き切ってしまいます。その秘密は、描く前と描いているときの関わり方にあります。

描く前に:絵日誌で「描くこと」を日常に

行事のあとに、いきなり描かせなくても大丈夫

私は、運動会が終わってからいきなり「運動会の絵を描きましょう」とは言いませんでした。運動会に向けて練習している毎日の中で、絵日誌のように描きためる活動をしていました。

  • マストに登れたとき
  • 竹馬に乗れるようになったとき
  • すごく印象に残ったことがあったとき
踊りや玉入れなど運動会の一場面を描いた4つの作品
踊る、投げる、友だちと並ぶ。同じ運動会でも、心に残る場面は一人ひとり違います。

その時々に、子どもたちがA4ぐらいの紙に描きます。こうしておくと、描くことが特別なことではなくなり、ハードルがぐっと低くなります。

だから運動会のあとに「描こう」と言っても、子どもたちはドキドキしません。当日のこと、一番心に残ったことを、そのまま描けるのです。

油性マーカーでいきなり描くと聞くと、「失敗したらどうしよう」と心配になるかもしれません。でも、お絵描きを積み重ねてきた子どもたちは、本当にスイスイ描いていきます。

迷わず描ける7つのポイント

「どう描く?」の前に、「何を伝えたい?」を聴く

1まず「何を描きたい?」と聴く

描き始める前に、「運動会で何が一番楽しかった?」と聴いてみます。リレーでバトンを渡したところ?追い抜いたところ?それとも綱引き、玉入れ?

こうして聴いていくと、楽しかった場面が子どもの「頭のテレビ」に映ります。あとは、それを描くだけです。

2一番描きたいところから描く

「まずは一番描きたいところから描くんだよ」。このことばがけを、いつも伝えてあげてください。

トラックや旗からではなく、「自分」や「友だち」から描き始める。それだけで、子どもたちが絵の主役になります。

2本のマストに登る子どもと周りの仲間を描いた線描画
登る子、応援する子、見守る子。子どもが描きたかった場面を、一緒にたどります。

3同じテーマで「島」を作る

テーマが決まったら、4人ぐらいずつのグループ(島)に分かれて座ります。お話しながら描くと、イメージが湧いてきます。

「あ、そうだった、そうだった」「〇〇ちゃんと〇〇ちゃん、並んでたね」。友だちのことばで、思い出が次々によみがえります。これが思い出の響き合いです。

4描けない子も大丈夫

島になってみんなで描くと、描けない子どもも、助け合いながら、まねっこしながら描くことができます。一人で白い紙と向き合うよりも、ずっと安心できるのです。

5先生は回って、響き合わせる

先生は、描いている子どもたちの間を歩いて回ります。そして「これもいいね」「こういう描き方もあるね」と、いいところを周りに広げていきます。

すると子どもたちからも「ねえ見て見て!」「こんな描き方もあるんだ!」という声が上がります。表現の響き合いが、クラス全体に広がっていきます。

6画材と紙の選び方

ものおすすめポイント
紙四つ切りの白い画用紙いちばん多く使っていた紙です
描く画材油性マーカー太い線と細い線の使い分けもできるようになります
色を塗るなら水彩絵の具一部だけ塗ることも、全部塗ることもできます
運動会の体験画で使っていた画材

油性マーカーで描いておけば、上から絵の具を塗っても線がにじみません。

7みんなで描く:共同画・紙芝居

みんなで描く活動には、「描いても描かなくても大丈夫」という安心感があります。

そして、一人ひとりが役割をもらえます。たとえば玉入れなら、「玉だけ描いて」「人だけ描いて」と役割分担ができます。一人ひとりが場面を描いてつなげれば、クラスみんなの紙芝居にもなります。

運動会のドラマが、絵を変える

子どもの中に残るのは、勝ち負けだけではありません

木の壁に掲示された色とりどりの運動会の絵
同じ体験をしても、表れる思いはそれぞれ。並べて見ると、違いも響き合いも見えてきます。

あーちゃんとしー君のマスト登り

マストに登る子どもと下で支える仲間を赤い線で描いた作品
マストを登る姿と、下から支える仲間。絵の中にも、友だちとのつながりが表れています。

ここで、ある年の運動会のドラマをご紹介します。

赤チームと白チームでマスト登りの練習をしていたとき。赤組のあーちゃんは、なかなか登れませんでした。赤組のみんなが応援する中で、あまり話すのが得意ではないしー君が、あーちゃんを下から押し上げて、いつも練習に付き合ってくれました。

そして、あーちゃんは登れるようになったのです。

運動会当日。赤チームも白チームも、するすると登っていきます。でも最後、ギリギリで赤チームが負けてしまいました。入退場門へみんなを引率して帰るとき、しー君が私の隣にすっと来て、こう言ってくれたのです。

「もも先生、赤組は負けたけど、あーちゃんが登れただけで僕は十分や」

本番の運動会の最中なのに、涙が出るほどうれしい言葉でした。

しー君の、1か月で変わった絵

しー君は、マスト登りの絵を最初は弱々しい線で描いていました。ところが1か月後の秋祭りの絵では、山も、木々も、たくさんの人も、いきいきと描けるようになったのです。

運動会でみんなの心が一つになって頑張ったことが、その後のお絵描きにも影響してくる。そのことが、私にはよく分かった出来事でした。

マスト登りと1か月後の秋祭りの絵を左右に並べた比較資料
左:マスト登りの絵 / 右:1か月後の秋祭りの絵。しー君の表現の変化。

綱引きの絵

運動会のプログラム用に「1枚描いて」とお願いしたときのことです。綱引きの絵がとても素敵に描けていたので、園長先生の助言もあり、「綱を斜めに描いてみてくれないかな」と相談しました。

すると、斜めの綱をみんなで引っぱる絵を描いてくれたのです。描けば描くほど、子どもたちはいろんなことを思いつきます。この頃になると集中力もついて、お絵描きもどんどん緻密になっていきます。

子どもたちが斜めの綱を引く様子を描いた作品
「綱を斜めに描いてみてくれないかな」。相談から生まれた、動きのある綱引きの表現。

作品を見るポイント

運動会の絵を見るとき、つい「上手に描けているか」に目がいきがちです。でも、私が大切にしているのは、その絵を描きながら子どもが何を話していたか、どんな表情で描いていたか。絵の中には、その子だけの運動会がつまっています。

小さく描いた絵

「もっと大きく描いて」と言いたくなるかもしれません。でも小さく描く子は、見たことをひとつずつ思い出しながら、絵日誌のように伝えようとしていることがあります。大きさより、描きながらこぼれることばに耳をすませてみてください。

綱引きの絵

綱がまっすぐ横に一本。友だちが並んで、力いっぱい引っぱっている。それだけで、もう十分に素敵な絵でした。「綱を斜めに描いてみてくれないかな」と相談すると、斜めの綱をみんなで引っぱり合う絵になりました。教えたのは描き方ではなく、「斜め」というひとことの相談だけ。描く力は、もう子どもの中にあるのです。

トラックの絵

上から見たトラックの上を、横から見た人が走っています。大人から見ると不思議な構図かもしれません。でも子どもにとっては、「トラックを走った」という体験そのものです。「どこを走ってたの?」と聴くと、その子の運動会が見えてきます。

万国旗の絵

夢中で描いた旗の数だけ、運動会のワクワクがつまっています。旗で紙がいっぱいになっても大丈夫です。まず「旗、いっぱいあったね」と受けとめてから、「その下で、何してたの?」と聴いてみてください。次の一筆につながっていきます。

よくある質問・ことばがけ例

Q1.「何を描いたらいいか分からない」と言われたら?

描くものが多すぎて、迷っているのかもしれません。描くものを、ひとつにしぼるお手伝いをしましょう。

ことばがけ例
「運動会で、何が一番楽しかった?」

Q2.トラックの向きや、人の向きで止まってしまったら?

描き方を教えるのではなく、その子が見た場面を思い出せるように聴いてみましょう。

ことばがけ例
「〇〇ちゃんは、どこにいたの?」「どっちに向かって走ってた?」「綱引きの真ん中に立っているのは、だれ?」

Q3.万国旗ばかり描いて、主役が入らないときは?

「旗ばっかり」と否定しないでください。旗に夢中になったのも、その子の運動会です。

ことばがけ例
「旗、いっぱいあったね」→「その下で、だれが何してたの?」

Q4.小さく描く子に、大きく描いてほしいときは?

大きく描かせる必要はありません。小さな絵にも、その子の思いがたくさん入っています。

ことばがけ例
「これはだれ?」「ここで何してるの?」(ひとつずつ指さしながら聴く)

Q5.「上手だね」と言ってはいけないの?

評価のことばより、その子の思いに共感することばを届けてみてください。「先生は、私の話を聴いてくれた」という安心感が、次の絵につながります。

ことばがけ例
「がんばって引っぱったんだね」「楽しかったんだね」

Q6.構図を変えてほしいときは、どう伝えたらいい?

指示ではなく「相談」にしてみてください。「〜してみてくれないかな」と聴くと、子どもが自分で選ぶ余地が残ります。断られても大丈夫です。否定しない・強制しない・評価しない。その関わりを大切にします。

ことばがけ例
「綱を斜めに描いてみてくれないかな」

まとめ:だから、絵を聴く

明日、ひとつだけ。子どもの「一番」を聴いてみませんか

大切なのは、上手下手ではありません。絵を作品として見栄えよくすることよりも、その子の伝えたい思いがどれだけ入っているかが大切です。

お絵描きは、作文の前段階とも言われます。芸術のようにとらえられがちですが、子どもが思いを伝えるための手段なのです。だから私は、運動会に向けてどんなドラマがあったか、その思いを伝える手段としてお絵描きを考えています。

思いを聴きながら描くと、子どもの中でイメージが広がっていきます。そして絵の中から、自己肯定感や自尊心、仲間への思い、協調性が現れてきます。

「運動会で、何が一番楽しかった?」

運動会の絵で迷ったら、まずこのひと言から。否定しない、強制しない、評価しない。その関わりが、運動会の絵を変える第一歩です。

描き方を教えようと頑張る前に、その子の心に残った場面を、一緒に思い出してみてください。「それを描きたかったんだね」と受け止めてもらう時間が、伝える喜びにつながっていきます。

もも先生の動画でも、絵を聴いてみませんか

描く前のことばがけや、子どもたちの表現について、動画でもお話ししています。記事とあわせてご覧ください。

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まずは、一人の子の「描きたい」を聴くところから始めましょう。

園全体で「絵を聴く保育」を深めたい方へ

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