
2026年10月20日 · 土居桃子(もも先生)
運動会の絵が描けないのは、子どもの力不足ではありません。描くものが多すぎて、子どもが迷ってしまうからです。その理由と、迷わずに「一番描きたいこと」を描けるようになる関わり方を、保育の実践エピソードと一緒にご紹介します。
皆さん、運動会シーズン。お絵描きで困っていませんか?
「運動会の絵を描こう」と言ったとたん、子どもの手が止まってしまう。トラックや万国旗ばかりで、肝心の子どもたちの姿が小さくなってしまう。そんな声をよく聞きます。
このお話は、インスタライブでいただいた「5歳の運動会の絵、どうやって描く?」という質問から生まれました。25年間、保育の現場で37,500枚の絵を聴いてきた経験から、お答えしていきます。
もも先生の保育ノート
描き方の前に、その子が見ていた運動会を聴いてみる。ここからは、子どもたちの作品とともに、保育の中で大切にしてきた関わりをお伝えします。
この記事でわかること
- 運動会の絵で、子どもが迷ってしまう理由
- 「一番描きたいこと」を引き出す7つの関わり
- 体験と仲間への思いが、絵につながる実践エピソード
なぜ描けない?運動会の絵
迷うのは、描くものが多すぎるから
運動会の絵は、実はとっても難しい絵です。理由は大きく2つあります。

トラックを描くと…どっち向きに描く?
先にトラックを描くと、そこに人をどう描いたらいいか分からなくなります。向こう側の人は?横向き?大きさは?上から見たトラックの上を、横から見た人が走る。これは構図として、とても難しいことです。

万国旗を描くと…旗に夢中で、主役が入らない
万国旗は、描き始めると楽しくて止まらなくなります。気づいたら旗で紙も時間も使い切って、一番描きたかったことが入らなくなってしまうのです。
子どもの力不足?
情報が多すぎて、迷っているのかもしれません。
運動会の絵は、大人が描いても難しい。正直に言うと、私も描けません。それでも子どもたちは、教えなくても、前向き・横向き・後ろ向きを描き切ってしまいます。その秘密は、描く前と描いているときの関わり方にあります。
描く前に:絵日誌で「描くこと」を日常に
行事のあとに、いきなり描かせなくても大丈夫
私は、運動会が終わってからいきなり「運動会の絵を描きましょう」とは言いませんでした。運動会に向けて練習している毎日の中で、絵日誌のように描きためる活動をしていました。
- マストに登れたとき
- 竹馬に乗れるようになったとき
- すごく印象に残ったことがあったとき

その時々に、子どもたちがA4ぐらいの紙に描きます。こうしておくと、描くことが特別なことではなくなり、ハードルがぐっと低くなります。
だから運動会のあとに「描こう」と言っても、子どもたちはドキドキしません。当日のこと、一番心に残ったことを、そのまま描けるのです。
油性マーカーでいきなり描くと聞くと、「失敗したらどうしよう」と心配になるかもしれません。でも、お絵描きを積み重ねてきた子どもたちは、本当にスイスイ描いていきます。
迷わず描ける7つのポイント
「どう描く?」の前に、「何を伝えたい?」を聴く
1まず「何を描きたい?」と聴く
描き始める前に、「運動会で何が一番楽しかった?」と聴いてみます。リレーでバトンを渡したところ?追い抜いたところ?それとも綱引き、玉入れ?
こうして聴いていくと、楽しかった場面が子どもの「頭のテレビ」に映ります。あとは、それを描くだけです。
2一番描きたいところから描く
「まずは一番描きたいところから描くんだよ」。このことばがけを、いつも伝えてあげてください。
トラックや旗からではなく、「自分」や「友だち」から描き始める。それだけで、子どもたちが絵の主役になります。

3同じテーマで「島」を作る
テーマが決まったら、4人ぐらいずつのグループ(島)に分かれて座ります。お話しながら描くと、イメージが湧いてきます。
「あ、そうだった、そうだった」「〇〇ちゃんと〇〇ちゃん、並んでたね」。友だちのことばで、思い出が次々によみがえります。これが思い出の響き合いです。
4描けない子も大丈夫
島になってみんなで描くと、描けない子どもも、助け合いながら、まねっこしながら描くことができます。一人で白い紙と向き合うよりも、ずっと安心できるのです。
5先生は回って、響き合わせる
先生は、描いている子どもたちの間を歩いて回ります。そして「これもいいね」「こういう描き方もあるね」と、いいところを周りに広げていきます。
すると子どもたちからも「ねえ見て見て!」「こんな描き方もあるんだ!」という声が上がります。表現の響き合いが、クラス全体に広がっていきます。
6画材と紙の選び方
| もの | おすすめ | ポイント |
|---|---|---|
| 紙 | 四つ切りの白い画用紙 | いちばん多く使っていた紙です |
| 描く画材 | 油性マーカー | 太い線と細い線の使い分けもできるようになります |
| 色を塗るなら | 水彩絵の具 | 一部だけ塗ることも、全部塗ることもできます |
油性マーカーで描いておけば、上から絵の具を塗っても線がにじみません。
7みんなで描く:共同画・紙芝居
みんなで描く活動には、「描いても描かなくても大丈夫」という安心感があります。
そして、一人ひとりが役割をもらえます。たとえば玉入れなら、「玉だけ描いて」「人だけ描いて」と役割分担ができます。一人ひとりが場面を描いてつなげれば、クラスみんなの紙芝居にもなります。
運動会のドラマが、絵を変える
子どもの中に残るのは、勝ち負けだけではありません

あーちゃんとしー君のマスト登り

ここで、ある年の運動会のドラマをご紹介します。
赤チームと白チームでマスト登りの練習をしていたとき。赤組のあーちゃんは、なかなか登れませんでした。赤組のみんなが応援する中で、あまり話すのが得意ではないしー君が、あーちゃんを下から押し上げて、いつも練習に付き合ってくれました。
そして、あーちゃんは登れるようになったのです。
運動会当日。赤チームも白チームも、するすると登っていきます。でも最後、ギリギリで赤チームが負けてしまいました。入退場門へみんなを引率して帰るとき、しー君が私の隣にすっと来て、こう言ってくれたのです。
「もも先生、赤組は負けたけど、あーちゃんが登れただけで僕は十分や」
本番の運動会の最中なのに、涙が出るほどうれしい言葉でした。
しー君の、1か月で変わった絵
しー君は、マスト登りの絵を最初は弱々しい線で描いていました。ところが1か月後の秋祭りの絵では、山も、木々も、たくさんの人も、いきいきと描けるようになったのです。
運動会でみんなの心が一つになって頑張ったことが、その後のお絵描きにも影響してくる。そのことが、私にはよく分かった出来事でした。

綱引きの絵
運動会のプログラム用に「1枚描いて」とお願いしたときのことです。綱引きの絵がとても素敵に描けていたので、園長先生の助言もあり、「綱を斜めに描いてみてくれないかな」と相談しました。
すると、斜めの綱をみんなで引っぱる絵を描いてくれたのです。描けば描くほど、子どもたちはいろんなことを思いつきます。この頃になると集中力もついて、お絵描きもどんどん緻密になっていきます。

作品を見るポイント
運動会の絵を見るとき、つい「上手に描けているか」に目がいきがちです。でも、私が大切にしているのは、その絵を描きながら子どもが何を話していたか、どんな表情で描いていたか。絵の中には、その子だけの運動会がつまっています。
小さく描いた絵
「もっと大きく描いて」と言いたくなるかもしれません。でも小さく描く子は、見たことをひとつずつ思い出しながら、絵日誌のように伝えようとしていることがあります。大きさより、描きながらこぼれることばに耳をすませてみてください。
綱引きの絵
綱がまっすぐ横に一本。友だちが並んで、力いっぱい引っぱっている。それだけで、もう十分に素敵な絵でした。「綱を斜めに描いてみてくれないかな」と相談すると、斜めの綱をみんなで引っぱり合う絵になりました。教えたのは描き方ではなく、「斜め」というひとことの相談だけ。描く力は、もう子どもの中にあるのです。
トラックの絵
上から見たトラックの上を、横から見た人が走っています。大人から見ると不思議な構図かもしれません。でも子どもにとっては、「トラックを走った」という体験そのものです。「どこを走ってたの?」と聴くと、その子の運動会が見えてきます。
万国旗の絵
夢中で描いた旗の数だけ、運動会のワクワクがつまっています。旗で紙がいっぱいになっても大丈夫です。まず「旗、いっぱいあったね」と受けとめてから、「その下で、何してたの?」と聴いてみてください。次の一筆につながっていきます。
よくある質問・ことばがけ例
Q1.「何を描いたらいいか分からない」と言われたら?
描くものが多すぎて、迷っているのかもしれません。描くものを、ひとつにしぼるお手伝いをしましょう。
ことばがけ例
「運動会で、何が一番楽しかった?」
Q2.トラックの向きや、人の向きで止まってしまったら?
描き方を教えるのではなく、その子が見た場面を思い出せるように聴いてみましょう。
ことばがけ例
「〇〇ちゃんは、どこにいたの?」「どっちに向かって走ってた?」「綱引きの真ん中に立っているのは、だれ?」
Q3.万国旗ばかり描いて、主役が入らないときは?
「旗ばっかり」と否定しないでください。旗に夢中になったのも、その子の運動会です。
ことばがけ例
「旗、いっぱいあったね」→「その下で、だれが何してたの?」
Q4.小さく描く子に、大きく描いてほしいときは?
大きく描かせる必要はありません。小さな絵にも、その子の思いがたくさん入っています。
ことばがけ例
「これはだれ?」「ここで何してるの?」(ひとつずつ指さしながら聴く)
Q5.「上手だね」と言ってはいけないの?
評価のことばより、その子の思いに共感することばを届けてみてください。「先生は、私の話を聴いてくれた」という安心感が、次の絵につながります。
ことばがけ例
「がんばって引っぱったんだね」「楽しかったんだね」
Q6.構図を変えてほしいときは、どう伝えたらいい?
指示ではなく「相談」にしてみてください。「〜してみてくれないかな」と聴くと、子どもが自分で選ぶ余地が残ります。断られても大丈夫です。否定しない・強制しない・評価しない。その関わりを大切にします。
ことばがけ例
「綱を斜めに描いてみてくれないかな」
まとめ:だから、絵を聴く
明日、ひとつだけ。子どもの「一番」を聴いてみませんか
大切なのは、上手下手ではありません。絵を作品として見栄えよくすることよりも、その子の伝えたい思いがどれだけ入っているかが大切です。
お絵描きは、作文の前段階とも言われます。芸術のようにとらえられがちですが、子どもが思いを伝えるための手段なのです。だから私は、運動会に向けてどんなドラマがあったか、その思いを伝える手段としてお絵描きを考えています。
思いを聴きながら描くと、子どもの中でイメージが広がっていきます。そして絵の中から、自己肯定感や自尊心、仲間への思い、協調性が現れてきます。
「運動会で、何が一番楽しかった?」
運動会の絵で迷ったら、まずこのひと言から。否定しない、強制しない、評価しない。その関わりが、運動会の絵を変える第一歩です。
描き方を教えようと頑張る前に、その子の心に残った場面を、一緒に思い出してみてください。「それを描きたかったんだね」と受け止めてもらう時間が、伝える喜びにつながっていきます。
もも先生の動画でも、絵を聴いてみませんか
描く前のことばがけや、子どもたちの表現について、動画でもお話ししています。記事とあわせてご覧ください。
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